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米国政府機関の閉鎖に伴うFDA業務の影響

October 22, 2025

U.S. government shutdown

Executive Summary

2025年10月1日現在、米国連邦政府は2026会計年度(FY2026)の予算未成立により、資金供給が途絶えた状態にあります。これに伴い、FDA(米国食品医薬品局)は「非常時人員配置計画(Contingency Staffing Plan)」および「予算不足法(Anti-Deficiency Act: ADA)」に基づく法的制約のもとで業務を継続しています。

ADAの規定により、FDAはFY2026における申請手数料を伴う新規の規制申請を受理できません。また、通常の査察、会議、緊急性の低いコミュニケーションなどは一時停止または遅延する可能性があります。

一方で、FDAは公衆衛生および安全確保に関わる重要業務 ― 安全性モニタリング、リコール対応、輸入検査など ― は継続すると発表しています。過年度に徴収されたユーザーフィー(carryover funds)によって資金が確保されている業務は継続されますが、進捗が遅れる可能性があります。

本レポートでは、FY2026の米国政府閉鎖がFDAの規制業務および公衆衛生活動に与える影響を分析し、継続される主要業務、閉鎖中に下された承認判断、そして申請・査察・上市計画におけるスポンサーへの制約を整理します。

政府閉鎖の現状

2025年10月1日午前0時1分(米東部時間)、米国議会がFY2026予算案を可決できなかったことにより、連邦政府は閉鎖に入りました。これにより一部の政府機関の業務が停止し、財源確保をめぐる交渉は継続中です。

10月20日時点で閉鎖は3週目に突入し、上院では複数回の継続予算(Continuing Resolution)投票が行われたものの、政府資金の再開には至っていません。

今回の事態は、米国の近年の歴史において21回目の資金供給停止、そして11回目の政府閉鎖であり、2018〜2019年の35日間の閉鎖以来初めてのものです。これにより、食品・医薬品・医療機器・バイオ製剤を管轄するFDAをはじめとする重要機関が影響を受けています。

 

FDAの人員体制と業務状況
  • 約86%のFDA職員が業務を継続中
  • 66%は過年度のユーザーフィーによる資金で申請審査や規制業務を継続
  • 19%は「例外職員」として公衆衛生・安全確保に従事
  • 残りの職員は資金供給再開まで一時帰休(furlough)状態
  • 通常業務・非必須業務は一時停止し、公衆衛生関連業務を最優先

この体制により、FDAは資金途絶中でも必要不可欠な規制機能を維持しています。

継続される業務:ミッションクリティカルな活動

FDAの閉鎖期間中の活動は、主に以下の2つの資金源に基づき実施されます:

  1. 過年度のユーザーフィーによる資金
  2. 人命に関わる緊急対応

 

ユーザーフィー資金による継続業務
  • 申請審査の継続:既に提出済みで手数料支払い済みの新薬申請(NDA)、生物製剤承認申請(BLA)、後発医薬品申請(ANDA)、医療機器のPMA、510(k)、De Novo分類リクエストなどの審査を継続。
  • ガイダンス・規制文書の発出:ユーザーフィー関連プログラムに紐づく文書は引き続き発出される。

※ただし、繰越資金は有限であり、審査スピードは低下する可能性があります。

 

公衆衛生・安全関連活動
  • 食中毒や感染症発生への緊急対応
  • 高リスク製品のリコール対応および医薬品不足対策
  • 医療機器・医薬品の重大な安全性問題の監視
  • 食品・医療製品の輸入検査
  • 緊急性の高い「フォーコーズ(for-cause)」査察・調査
  • 必要なIT・法務・給与・施設維持業務

これらにより、米国の医薬品および食品供給の安全性は閉鎖中も一定程度維持されています。

実例:閉鎖中の承認判断

2025年10月2日、FDAはZepzelca(ルルビネクチン)とTecentriq(アテゾリズマブ)の併用療法を「進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)」の維持療法として承認しました。
第3相試験で有意な無増悪生存期間および全生存期間の改善が確認されており、ES-SCLCにおける初の維持療法併用承認として、重要なアンメット・メディカル・ニーズに応える結果となりました。
このような承認は、FDAが閉鎖中でもユーザーフィー資金を活用し、重要な審査機能を継続していることを示しています。
PDUFA日を控えるスポンサーは、遅延リスクを想定し、FDAの最新情報を継続的に確認する必要があります。

遅延が予想される分野:主なボトルネック

INDIDE申請
  • 多くのIND(治験届)およびIDE(医療機器臨床試験届)は手数料を要しないため、申請および審査が継続可能。
  • 被験者の安全に関わる緊急INDや修正申請は優先的に処理される。
規制当局とのコミュニケーション
  • 通常の問い合わせや会議設定などの非緊急対応は遅延。
  • 公衆衛生関連業務が優先されるため、審査フィードバックや面談スケジュールの遅れが発生する可能性あり。

「資金途絶期間中も、法の範囲内で公衆衛生と安全を確保するために必要不可欠な活動を継続します。
FDA FY2026 Funding Lapse
情報より

一時停止される業務:業界への主な制約

新規申請の受付停止
  • FY2026の手数料支払いを伴う新規申請は受理不可。
  • NDA、BLA、ANDA、バイオシミラー申請、PMA、510(k)、De Novoなどが対象。
    → 近い時期に申請を予定している企業は、マイルストーンや上市時期の遅延が見込まれる。
定期査察の停止
  • 緊急リスク対応やユーザーフィー資金によるものを除き、GMPなどの定期査察は停止。
  • 承認前査察・定期監査を控える企業は、再開時期の不確実性に備える必要あり。
政策関連業務の中断
  • ユーザーフィー非関連のガイダンス策定、規制科学プロジェクト、政策開発、食品・飼料成分の新規承認審査などは停止。
  • 非承認医薬品・調剤薬監督も、緊急性の高いケースに限定。

グローバル企業・スポンサーへの影響

影響

対応策

規制・臨床開発

治験開始の遅延、患者リクルート・維持への影響

スケジュールに柔軟性を持たせ、FDA対応に時間的余裕を確保

製造・査察

GMP/QMS査察の遅延による市場参入の遅れ

内部監査を強化し、査察再開に備える

グローバル戦略・商業展開

承認・査察遅延により米国上市計画が後ろ倒しに

他国市場での並行申請を検討し、リスク分散

期間

継続期間

職員への影響

製品区分別の審査遅延

査察業務への影響

その他の機能的影響

定量データ/バックログ状況

2025年(継続中)

2025101日開始

14%の職員が一時帰休、86%が重要業務・繰越資金で勤務継続

2026年度手数料を伴う新規申請の受付停止、既受理案件の審査は24週間遅延

定期査察は一時停止、安全性関連および理由付き査察のみ継続。査察バックログ拡大の懸念

諮問委員会やガイダンス発出が遅延、一部コミュニケーションも滞り

審査バックログは510%増加見込み、査察バックログは閉鎖後36か月続く可能性

20182019

35日間(20181222日〜2019125日)

40%の職員(7,000人超)が一時帰休

NDA審査3090日遅延、バイオ医薬品45120日、ANDA6090日、医療機器3075日遅延

定期査察は約90%減少、高リスク施設のみ継続。解消に数か月を要した

承認遅延(13か月)や連絡遅延が発生、職員負荷が増大

医薬品・医療機器2,000件超の申請が遅延、約7,000人が一時帰休、承認バックログは68か月継続

2013

16日間(2013101日〜17日)

45%の職員が一時帰休

一部審査は継続したが全体的に遅延。NDAANDAで軽微な遅れ

査察件数が4060%減少、数百件の施設査察が延期

緊急対応は継続、定常業務は停止

査察バックログ1520%、申請遅延は軽微

19951996

2回の閉鎖(5日間および21日間)

非必須業務の大部分を停止

新規申請は受付停止、審査は46週間遅延

緊急時を除くすべての査察を中止、再開時のスケジュール調整に影響

規制当局との連絡が遅延、次会計年度まで影響が残存

審査・査察ともに大幅なバックログ、製品上市の遅れが発生

今後の見通し

現時点で解決の見通しは立っておらず、主要プログラムを支えるユーザーフィー資金は約10週間分と見込まれています。閉鎖が長期化した場合、FDAはさらに追加の職員を一時帰休させる必要が生じる可能性があります。

FDAの通常業務は、議会がFY2026予算案または暫定予算(Continuing Resolution)を可決次第、再開される見通しです。

企業は、規制スケジュールに柔軟性を持たせ、閉鎖解除後のバックログ対応を視野に入れた計画を立てることが推奨されます。